シラベ [ルーツ]
学生時代、お金を貯めては旅をくりかえししていた。
これから先、もっと自由に使えるお金と時間を手にするだろう・・と信じながら。
今思えば、あんな経験はもう二度とできない。
「たとえコトバが通じなくても、ウタとオドリは共通言語」
旅の途中、知り合ったある年上の人が言った。
歌も、ダンスも、人前でする度胸はわたしにはなかった。
それでも、すんなり納得できた。
人間のルーツは自然そうしたリズムを持ったものだろう、と思えた。
音楽は、どういうときもすんなり心に染み込んでくるから。
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ともだちがくれたギターのCDを聴いていると、
遠く、懐かしいやさしさを思い出す。
澄んだ音色が、さざなみのように心を泡立たせる。
弦をすべるときの音さえ、琴線を鳴らす。
ちょうどいい温度にあたためられた砂浜に寝そべってるみたいに。
ちょっと泣いたあとには
愉快なトビラがひらく。
数日、この音に浸っていたら、
旅の思い出のかけらがきらめいて、
また、無性に旅したくなっている。
何もかもを飛び越えて。
ナミダ [記憶のトビラ]
不思議なほど今、目が赤い。
白目部分が真っ赤。
数日前から目の奥が光を感じると少し痛い。
高一のときのことを思い出した。
吹奏楽部に入部して、はじめてのアンサンブルコンクール予選の朝。
朝起きた時から、目が真っ赤だった。
母に「あんた・・それどうしたの?」と言われ、気がついた。
ただ、痛みも何もなく赤いだけ。
時間がたてば治るだろうと思っていたけれど治らなかった。
会場について会う人ごとに「わ・・!どうしたのー?!」と訊ねられる。
口の悪い友だちに至っては「うわ、めちゃ気色悪いわー」と言った。
そんなに気色悪いなら見なきゃいいのに、気になるらしく、目をのぞき込むわ、
10分置きに一度位わざわざ赤さ加減を確認しに来るわ・・。
いよいよ、舞台に上って、アンサンブルの予選。
あまりの激しい緊張でかえってスローモーションにそのときのことを覚えている。
最初の一音がそろって出なかったことで、かえって我に返り、奮い立ち
後半は何とかなった。
舞台袖に引っ込んだ途端、あまりの緊張からの解放でぶるぶる震えだし、
震えが止まらないだけでなく、涙が次から次へあふれだしてきた。
声も出ず、ただ涙がボロボロ・・出るだけ。
覚えているのは、そのときの顔や目に帯びた熱っぽさ。
じんじん痺れるような感覚。
悲しいわけではない、
普通の涙とはまったく種類のちがう涙だった。
不思議なことに、終わって駆け寄ってきてくれた友だちが
「あれー目なおってる」と言ったこと。
あんなに真っ赤で、もう二度とわたしの白目は白くならないだろう、いや元々赤かったのかも・・
というくらい赤かったのに・・。
きれいに真っ白になっていた。
何事もなかったように。
あのナミダ、
あのナミダがどんな種類の涙だったのか未だにわからないが、
今、この赤い目も、もしかしたらあのナミダを求めているのかもしれない。
進化 [観察]
エビを飼いはじめ、生命の不思議さを実感することが増えた。
何かにつけ、じっと見てしまう。
飽きない。
エビの水盤を朝見ると必ずと言っていいほど透明の抜け殻をみつける。
きれいなエビのカラダのままに抜けた殻。
そっと取り出すと、殻はやわらかい。
そしてこの上もなく繊細。
どんなに器用な達人にも再生することはできないだろう。
この抜け殻の中にもしやわらかいものをつめることが可能なら
そのまま勘違いして命が宿りそうなくらい。
水盤の底にそっと横たわる抜け殻をみつけるたび、ちょっとうらやましくなる。
脱ぎ捨てるたび、あたらしく生まれ変わるようで。
空に咲く花 [ルーツ]
カ・アヌエヌエ
それは虹
美のなかで大地を輝かせるもの。
(「日々是布哇」デブラ・F・サンダース著)
数日前、偶然書店で目に留まった一冊の本。
365日分の古代ハワイ人のコトバたち。
7月15日の項に書かれてあったコトバ。
大好きな虹に後押しされるようで、うれしさがこみあげた。
きょう、39歳を迎えた。
負けるが勝ち [記憶のトビラ]
自分がいちばん得意だったこと、ゆずれなかったこと、
はじめて追い抜かれる悔しさを知った12歳の時。
当時陸上部だったわたしは、走ることでは誰にも負けたことがなかった。
ほんの自分のぐるり、ちっぽけなお山でのこと・・なのに密かに天狗になっていた。
ほかに得意なこともなかったから、なおさら走ることにどこか懸けていたのだと思う。
はじめての地区予選大会決勝の日。
言うまでもなく打ちひしがれて帰宅。
家族の誰もが予想通りだと思ったはず。
わたしだけが半端なショックどころではなく、
羽をもがれたような、この世の終わりを感じていた。
しょげたわたしの顔を見て母のコトバ。
「しょせんそんなものよ。上には上がいるってこと!また次がんばればいいじゃない~」
・・さらに沈んだ。
ごはんもろくろく喉を通らず落ち込んでいたら、
父が部屋に来た。
「はじめての負けはくやしかったろう。でもよかったな、
せっかく負けたんだから元気出しなさい」
と言った。
・・・まるで意味がわからなかった。
「こいつにはかなわんなぁ・・って思わせる友だちがいてな、
お父さんは中学生の時、一生懸命頑張ってそいつに勉強もスポーツも勝ったと
思ったんだけどな・・
それでもずっと負けた気がしてならなかったんだよ」
笑いながら言った父の言葉が、今も鼓動しつづける。
まほうのつえ [本・本]
「やっと・・みつけた」
幼い頃に繰り返し読んだ大好きな本。
心にずっと残る本。
父が「いつかもう一度読みたい」と言った本。
引越しを繰り返すうち、いつしか家からその本は消えてしまっていた。
本屋をいくつ探しても、古本屋を渡り歩いても、PCで検索しても、誰かに聞いてみても・・
頭の引き出しにあるだけの心当たりを探しつくしても、手にすることができないでいた。
誰にでも記憶の中にこういう本の存在はあるだろう。
わたしにとってそれは、既に絶版になってしまった本、
「魔法のつえ」(講談社版・世界名作童話全集 ジョン・バッカン著)。
『魔法のつえ。
それは、どこへでも自分の行きたいところへ連れていってくれる、不思議なつえ。
けれど、このつえがいうことをきいてくれるのは、正しいことにつかうときだけです。
もし悪い心で、どこかへ行こうなんて考えたら、つえはぷんぷんおこって、
たちまち消えてなくなるのです。
主人公のビルはそのことを知らずに、ある日偶然、このつえを手に入れます。
そして、それが、魔法のつえだと知って大よろこび。
これから待ち受けるいくつもの冒険。
さて、ビルは、いったいどんなことに使うつもりでしょうか?』
数週間前、ふと”図書館”というルートを探れないものかと思いついた。
それがきっかけとなり、遠く離れたよその図書館から借りられることになった。
長い時間、出会うに出会えないもどかしさの中でただ時間だけを消耗してきたので、
あっけなくスルスル話がうまくいき、まだ夢のよう。
”まほうのつえ”を自分がふるったかのような錯覚・・。
数日かかって手元に届いた「魔法のつえ」。
どっしりしたぶあつさ、昔ながらの独特のざらりとした手触りの紙、
どれも馴染みのあるものばかり・・
再会を果たせたことに思っていた以上に心は大きく揺さぶられる。
手にとってみて、あぁこの本にまちがいない、
夢中になって読んでいた時空へ戻っていく。
やはり、どうしても父にもみせたくなって、コピーした。
できあがったばかりの”魔法のつえ”、早く父に届けたい。
このわくわく感もいっしょに。
タマゴの惨劇 [暮らし]
夜遅く、夫がラーメンを食べたいと言うので、
以前テレビで見た”簡単卵の作り方”を試したい、と口にした。
(ガラスコップに生卵を入れ電子レンジで1分チンするとほどなく出来上がるとか・・←おぼろげの記憶)
ラーメンに卵という組み合わせに難色を示しつつ(夜中だから)、
一瞬本能が察知したのか・・めずらしく渋々ながらの了承・・。
一方、ウキウキのわたしはチンした”成功らしくみえるタマゴ”を、
夫のラーメンの上にそっと乗せる。
夫が口を近づけ、まさに卵を口に入れようとした途端、
バンッ!!!
爆発音がし、気がついたらあたりは一面飛び散ったタマゴとラーメンだらけ・・。
!!ナ、ナニゴト?!!
夫はなにやら口元を押さえて固まり、目には涙を浮かべている。
よく状況が飲み込めないながらも、思わずその光景にブーーッとふき出してしまった・・。
(夫はてっきり音に驚いたんだと思った・・)
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・・冷静に話し始める夫(口元をタオルで冷やしながら・・)。
夫 「ホントにちゃんとテレビでやったとおりだったの・・?」
わたし 「うん・・・・(反省しつつ・・)
あれ・・?!ちょっと待てよ・・ゆで卵じゃなかったかも・・
炒り卵だったかな・・最初に割り箸で混ぜ合わせてたような気がしてきた・・」
夫 「・・・・・やっぱりな」
どうやら、卵は白身が先に固まり、あとから黄身の温度が上昇しゆっくり固まるらしい。
ということは、白身が先に固まるから卵の大きさはその時決定する。
まだ中で固まっていない黄身は膨張したくても膨張できない。
その状態から、白身を箸や口などで割ろうとするから、自由になった黄身が激しく飛び出す・・。
温度差がもたらした不幸・・(←いや、わたしか・・)。
それにしても、もしウチにちいさな子どもが居たらえらいことだったな・・。
バカ親ということだけではすまないだろう・・。
見事飛び散ったタマゴとラーメンだらけだった部屋は後片付けしたらきれいになったが、
翌朝、夫の唇はちょっとした火傷で腫れて赤黒くなっていた。
(かさぶたが取れるまで時間がかかったがもう元通りに)
笑ったりして、すまんかったね。
強く生きる言葉 [本・本]
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感性をみがくという言葉はおかしいと思うんだ。
感性というのは、誰にでも、瞬間にわき起こるものだ。
感性だけ鋭くして、みがきたいと思ってもだめだね。
自分自身をいろいろな条件にぶっつけることによって、
はじめて自分全体のなかに燃え上がり、広がるものが感性だよ。
(「強く生きる言葉」岡本太郎)
最近岡本太郎さんの本を数冊手にして以来、ふとした際にページを繰っている。
たまにパーンと頭の中に火花が散るような感覚が生まれる。
「他人が笑おうが笑うまいが、自分の歌を歌えばいいんだよ。」
(ミニチュア版「太陽の塔」)
空はつながっている [ともだち]
先週、福井にいる友人からクール宅急便が届いた。
キラキラの鯖の一夜干しが(丸々6匹!)とマーボースープがどっさり。
そういえば、先々週、電話で久しぶりに話したとき、
「夏、福井に遊びに来てくれたらめっちゃおいしい”鯖の一夜干し”食べさせてあげる!
ちょっと送ってみるから試してみて!ぜったいおいしいから!」
といつものように(強引に)言っていた・・。(母が以前鯖にあたりわたしも苦手だと伝えたから)
彼女は高校時代からの友人でかれこれ20年以上の付き合いになる。
福井に嫁ぎ、義母の会社の仕事を手伝いながら子育てをしている。
電話ではすっかり福井弁になった彼女と、大阪弁のわたしのいつもの会話。
当時の時間の流れまであっという間。
高校生の時の彼女は、短気で率直でとにかく気が強くて・・口も素行もちょいワルかった。
まだ誰も知らない時期に”olive”を読んだり、David Bowieを聴いていたりするような、
ちょっと目立つ存在だった。
一度だけどうしてもガマンならず頭にきてケンカしたことがあった。
当時、格好(制服や鞄)や校則を真面目に守っていたわたしに、
「あんたは先生の犬や!」と言われたことが癪に障った(なんて子どもっぽい・・)。
わたしが本気で腹を立てたことにものすごくショックを受けたらしい(ずっと後になってわかったことだが・・)。
部活(吹奏楽)も一緒にはじめ、最寄の駅が近くだったから通学も一緒。
ワケあってわたしが部活を去った後、彼女もすぐ辞め、
でもそのことでわたしのことを随分責めたてながら、怒りながら、泣きながら・・
それでも一緒に帰ったんだったな・・。
いわば、同志。
そんな彼女が、先日の電話ではずいぶん気弱な様子だった。
「絶対に変に思わんでほしいねんけど、交通費やら宿やら何ーにも考えんでいいから
全部私に任せといて!あんたにカラダひとつでどうしても来てほしいねん」
今なら時間は有り余るほど自分のためにあるのに。
飛行機も特急電車にも乗りこめない自分のカラダを心から恨んだ・・。
もうすぐ彼女の誕生日。
ひさしぶりに思い出したこと、ゆっくりと手紙に書いてみよう。