くつみがき。 [記憶のトビラ]
休日になると声がかかった。
「おー・・ぅい・・はじめるぞ~~」
のんびりした、よく通る父の声。
朝食後の、自転車のそうじやメンテナンス、
庭の草むしり、草木の手入れ。
その中でも、心に残っているのが父との”くつみがき”の時間。
たっぷりと時間をかけて、ていねいに靴を磨いている父の背中は、
子どものわたしの目には、すっかり見慣れた風景として映っていた。
磨く工程を、ゆっくり時間をかけて、楽しそうに、口笛を吹きながらこなしていく父、
ひと組ずつの靴を、どれほど大切にしているか、よくわかった。
そんな父の姿を見るのが好きで、
休日のくつみがきの時間、ずっと父のそばに座り、手伝った。
土や埃をはらい、いったん簡単に全体にブラシをかける、
靴の素材と色に合ったクリームを塗りこむ、
時間を置いては拭き、また拭き、磨いて、陰干しする。
独特の皮と靴クリームの匂い、
父のよく動く大きな手、
靴と道具のカチャカチャ触れる音、
靴にかかる光と影、
靴がまた息を吹き返したように、ぴかぴかと生まれ変わる瞬間、
なぜだか、切り取られたかのような鮮やかさで、パッパッとその光景が思い出される。
靴を並べて干している時間、父と束の間のおしゃべり。
特別な時間。
いつもはしてくれない話が聞けた。
父が子どもの頃、やはりこんな風に祖父と”くつみがき”を一緒にしたこと、
そんな思い出話。
「足元のお洒落を、きちんとしなさい」
「靴は一日履いたら、二日休めてあげなさい」
そんなことも教わりながら。
「お前の履いた靴を見たら、ひとめで、一週間どんな顔して、どんなことがあったんだか
お父さんにはわかるよ」
と父に笑われ、見透かされたようなキモチで、その都度ドキッとした。
靴を色んな角度からながめてごらん、
どちらか偏っていないか、どこが磨り減っているか、
自分がどういう歩き方をしているかわかるだろう。
ぞんざいに足(靴)を引きずってずるずる歩いたり、蹴飛ばしたりしていたらわかるだろう、
ちゃんと、歩いたときの表情がわかるんだよ。
その人の生き方は足元に出る、
ごまかせないからこそ、自分が履いた靴をよく見なさい、
そして、一日歩いたら、一日分の靴の汚れをちゃんと落として、ひとやすみの時間。
結婚し、たまに、夫の脱ぎすてた大きな靴が玄関にごろんと寝転がってるのを見ると、
「なんで上がる時にきちんと向きをそろえておかないんだー!」と、つい怒ってしまう。
そうは言っても、手入れして、休ませて、日陰干しして・・なんてちょこちょこ世話を焼く。
当時、父に言われたときは面倒くさいなぁと、心のどこかで思っていた気がするが、
長い時間かけて身についた靴への思いが少しはあったということだろうか・・。
実家には、祖父(父方)の写真が飾ってある。
わたしが生まれたときには既に他界していた祖父。
明治生まれの祖父は、ハンチング帽を斜にかぶり、ベッコウのまるい縁の眼鏡をかけ、
チェックのカシミアのベストを着こなし、見事なモボ(モダンボーイの略)の装い。
こういういでたちを見て、明治生まれの人は粋だな・・と思う。
父は、こういう”おとうさん”に育てられた子どもだった。
”くつみがき”のとき、よく話してくれたわたしの知らない
父と息子の”くつみがき”の時間のやりとり。
写真の祖父も、父も、姿勢はいつもまっすぐと正している。
歩く姿も、きっと見ていてキモチがいいんだろうな・・
寒くなり、つい丸くちぢこまってしまう背中、
はっとして、背中をゆっくりと伸ばしてみた。
コンニチハ。
いいお話ですね。素敵なお父様との思い出、読ませていただきました♪ありがとう・・。
by ねこにん (2005-10-22 12:10)
最近とっても疲れている私にははっとさせられるお話です。
まっすぐ姿勢を正さないとね、
丸くなってると心も閉じていくもんね。
うん、今から靴を磨こうっと。
きづかせてくれてありがとうー。
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人から聞いた話。
”自分を磨くように靴を磨きなさい”
えっとかなり有名な靴デザイナーさん(確かイタリアの人)が
言った言葉らしいです。
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by ちい (2005-10-22 19:30)
私の父は子供が好きじゃなくて
私自身も、あまり父には懐かない子供だったんだけど
足の指の爪切りだけは、父の仕事で、いつも真剣に切ってくれてたなぁ。
数少ない、私の中の、父の思い出。。。
モボだったおじいさま、素敵ですね☆
昔の人のお洒落心って、なんだかとっても好きです。かわいくて。
私の祖父も早世してしまったので(43歳!)顔を知らないの。
「きっとおまえとは気が合ったはずだ」と父に言われるたび
会えなかったことが残念でなりません。
by ニコ (2005-10-22 21:54)
こんにちわ。
お父さんの靴に対する仕草や思いを垣間見させて頂き、
人の視点はおそらく生き方に反映するものだと感じてしまいました。
足下のお洒落、大切にしていきたいものです。
by かず (2005-10-23 08:54)
自分は最近まで好きな靴を毎日履いていました。
手入れなど全くせず・・・
でも最近購入した靴は大事に履いています。
「その人の生き方は足元に出る」 確かにそうだと思います。
一日一日考えて生きるようになって、自分の足元を
見られるようになってきたのではないかなと思いました。
by (2005-10-23 09:46)
昭和一けたの父親、物のない時代に育ったのに、妙に靴とか時計にこだわりもってます。
「皮靴は高くても良い物を買え、毎日履き替えろ」
でも、人にもよるのでしょうが20代やら30代で。靴にうん万円はかけられず。ましてそれを複数など、、、とてもとても(笑)
この年になって、ようやく1万円程度の革靴を履くようになりました。一応2足買いまして、履き替えたりして(笑)
そういえば昔、家にも瓶に入った靴墨とかブラシとか、ありました。。。
by ちょんまげ侍金四郎 (2005-10-23 11:52)
素敵なお話を聞かせていただきました、、、
ありがとうざいます!
オシャレは足元からと いいますが
うさぎさんのお父様のお話を伺うと、ただキレイな靴を
履いていればいい と、いうものではないのだな・・・
改めて思いました。
私も靴が大好きなのですが
素敵な靴を履いていれば幸せな方向に運んでいってくれる!
そう思っています。(笑)
by (2005-10-24 08:56)
うちに遊びに来ていただく際は、
靴箱は封印しておこうっと。
怒られそう…(笑)
わたしの父はよれよれの靴をはいていたなぁ。
わたしも同じ靴を履きつづけてしまうほうなので、長持ちしません。
母は、父とわたしの類似点を発見するたびに
「もう、あんたらそっくりやわぁ…」と
なぜかちょっと棘のある口調で言ったものです(笑)
話はそれて。
banaxさんという方がわたしたちが千葉にいるあいだに
沖縄旅行にこられていました。読谷にも。例の宿にも。
旅写真、おそろしく素敵です。
http://banax.exblog.jp/
ウツボさん、見て、見て。そして、来て(笑)
by ゆう (2005-10-25 13:13)
沢木耕太郎の記事でコメントいただきました。遅ればせながら遊びにきました〜
お父様のお話、何となく縁側の情景がうかんできますね。
靴磨きの話、じっくりと読ませてもらいました。いいお父様。
私の父もダンディだったので、父を思い出しつつ、読ませてもらいました。
私はお墓参りには、父の好きだったものを揃えていきます。好きだったもの、あれこれと思い出すので、行く度にモノがふえて、墓石の上は何とも脈絡のないお供え物が並びます。
このお話がきっかけで、思い出した[父の好きなモノ]がありました。
今度のお墓参りに持っていこう、と。
さてさて、↑のゆうさんのコメントが気になるので、帰りながら寄ってみようっと。
by チルダイ (2005-10-25 15:41)
*ねこにんさんへ*
はじめまして。ようこそ来てくださいました。
ナイス&コメントをありがとうございます。
お父様はちっとも素敵ではないのですが(苦笑)、
最近になって、色々なことを子どもの頃の記憶と、
自然と結びついて考えるようになりました。
また、よかったら遊びに来てくださいね。
by 月うさぎ (2005-10-25 20:15)
*ちいさんへ*
ちいさん、そ、そんなにお疲れだったんですね!
こんなことを書いておいてなんですが、わたしは靴を磨く余裕さえありません!なんと無責任なー(叫)!ゴメンナサイ。。反省。
ちいさんから今日教わった、
”自分を磨くように靴を磨きなさい”の言葉、肝に銘じますよー!
教えてくれてありがとう!
by 月うさぎ (2005-10-25 20:20)
*ニコちゃんへ*
足の爪を切ってもらうニコちゃんを想像してみました。。
そういう”父”の仕事って、何かしらあるものかもしれないね。
43歳の若さでなんて・・大して変わらない年齢・・。
気が合ったはずと言われるとなおさら会いたくなってしまうだろうね。
でも、受け継いでいるとすれば、ニコちゃんの中におじい様の存在が何かしらある気がする。
心強いことかもしれない。
by 月うさぎ (2005-10-25 20:26)
*かずさんへ*
はじめまして。ようこそ来てくださいました。
わたしの拙い表現をそんな風に感じ取ってくださって、
かずさんの豊かな心に感謝致します。
もし、ブログなどやられていてお差し支えなければ、
また教えてくださいね。
メッセージ、どうもありがとうございました!
by 月うさぎ (2005-10-25 20:30)
*IWAさんへ*
ナイス&メッセージをありがとうございます。
購入された靴はブログで書かれていたあの靴ですね(笑)?
大事になさっているんですね。
>一日一日考えて生きるようになって、自分の足元を
>見られるようになってきたのではないかなと思いました。
IWAさんは、ブログをはじめてからずっと、毎日ご自分の気持ちを
丁寧に書き綴ってらっしゃいますものね。
ずっと、そう感じていました。
わたしも、見習おう!といつも思うことです。
by 月うさぎ (2005-10-25 20:36)
*ちょんまげ侍金四郎さんへ*
ナイス&メッセージをありがとうございます。
わたしの両親も昭和ひとケタ生まれです。
”贅沢は敵”とよく子どもの頃しこまれました(笑)。
それはしっかりと根付き、普段は節約なんてちっともできないのに
ヘンなところで、一着・一足主義(これは極端な例ですが・・)を守っている時があります。
誰にでも歩き癖って多少はあるようなので、これ!と自分にぴったりの靴を見つけると、色違いで買っておくと仕事の場合は便利ですね。
by 月うさぎ (2005-10-25 20:44)
*masiraさんへ*
ナイス&メッセージをありがとうございます。
>素敵な靴を履いていれば幸せな方向に運んでいってくれる!
ステキな言葉をありがとうございます。
確かに、お気に入りの靴を履くと、一日気持ちも明るくなりますよねぇ
”幸せな方向に運んでいってくれる”。
明日から、朝、靴を履く前に思い浮かべます!
masiraさん、どうもありがとうございました。
by 月うさぎ (2005-10-25 20:48)
*ゆうさんへ*
靴箱、封印しなくても大丈夫だよー(叫)!
書いてることとやってること、伴ってないから(笑)(←無責任)
ゆうさんはお父さん似なのね。
わたしも父に似てるはずなのに・・
靴は気に入りのばかり履いてしまうのですぐにダメにしてしまう。
(↑実行できれば問題ないはずなのに・・。戒めの記事)
さてさて、沖縄誘惑記事(笑)!早速見てきましたよー!
はい、すぐに囚われの身になりました(笑)
帰宅したら速攻!ゆうさんのかわいらしいセリフと共に
夫にも見せましょうねぇ~きっとオチル(にやり)
虜になるはず。。ふっふっふ
感謝と願いをこめつつ、引き続き、情報よろしくお願いしまーす(笑)!
by 月うさぎ (2005-10-25 20:58)
*チルダイさんへ*
ようこそ来てくださいました。わざわざありがとうございます!
チルダイさんのお父様、幸せですね。。
そんなに好きなモノたちをいつも娘さんに運んでもらえて。
脈絡のないお供え物にしばし想像をめぐらせました。。
脈絡のないものほど、思いがこもっているものはないように感じました。
これがきっかけで、チルダイさんが思い出されたモノがあって、
わたしまでとても嬉しくなりました!
またもしよかったら遊びに来てくださいね。
by 月うさぎ (2005-10-25 21:06)